石黒 正数

アガペ 2 (MFコミックス)
石黒 正数

最近は紳士の皆様にもお馴染みになりつつある石黒正数先生のデビュー作と聞いて手に取ったアガペです。手に取ったというか、借り物なんですけどw
ついったーで得た情報では三巻以降は作品の雰囲気が急変するらしいので、とりあえず二巻まで読了した時点での感想をまとめることにします。
作品のタイトルでもあるアガペとはなんぞやというと、代償を求めない利他的な愛の事。
他者を慈しむ愛とは本来相手との相互的な想いの交換の上に発生するものであって、その交換する想いとは自己愛であると考えている自分とって、完全に利他的な愛など概念上の存在としか捉えられず、具体的な利他的な愛とはいかなるものであるかをイメージする事が出来ません。
厳密に言うと理屈の上ではイメージ出来るのですが、具体的な感情をイメージ出来ないというべきか。
とにかくそういう次第なので、作中でこの利他的な愛という概念をどう表現して、どう読者に伝えてくれるかが一番の注目点。
作品はこの利他的な愛を表現する手段として、犯罪者との交渉(ネゴシエーション)というガジェットを用いています。
主人公の一乗はるかはバスジャック犯に父親を刺殺されても犯人を憎むことなく、犯人に慈しみを与え自首をさせた事で警視庁刑事部捜査第一課第一特殊犯捜査第ゼロ係にスカウトされる事になるのですが、この一連の流れでひねくれ者の自分の頭の中に浮かんだのは、誰もを等しく代償を求めること無く愛せるというのは、本当に愛なんだろうかという思い。
たぶん愛ではなく「赦し」という言葉を用いられていれば、なるほどと納得したのかも知れませんが。
全く難儀なテーマを作品に掲げてしまった訳で、三巻以降の展開の変化というのはもしかしたら原作者自身思考の袋小路に嵌ってしまった結果ではなかろうかと邪推してみたり。
ただ、この愛をただ単純に美しい理想の偶像として祀り上げること無く、愛によって更なる悲劇が引き起こされたり、人生を狂わせたりといった、多面的な描き方を試みているのは面白いと思います。
これであともう一歩「愛」の実体に踏み込んでくれれば…。
ま、それは一旦置いといて、石黒先生の絵の変化がなかなか楽しいのです。
借り物の本なのでスキャナにかけられないのが残念な位に現在とは絵柄が違う。男性キャラの描き方に関してはほとんど固定されている様で、現在もこの当時もほぼ同じ。強いて相違点を挙げるとすれば線がやや固いこと位ではないかと思います。
反面女性の描き方は随分違うというか、1・2巻当時のヒロインはるかさんは随分繊細で可憐。
歩鳥や鯨井先輩の様なある種の逞しさは全く無く、どちらかと言うとノーブルな雰囲気すらあるのにたまげる。2巻の中盤、武市の狂言による脅迫事件辺りから現在の絵に近づいてきた雰囲気はありますが。
また、1巻にはそれ町でお馴染みのおまわりさんが何気に登場していたり、展開が変わる話を聞いてチラ見程度に開いた3巻には喫茶シーサイドの名前が登場していたりと、作品感のリンクが仕込まれているのは楽しいですね。
それ町も1巻から読み直すと何か新発見があるかも知れない。
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